沿革
社団法人全日本鍼灸学会の沿革
~学会としての歴史は70年以上、法人としては40年を超えた~
法人事業の基盤
1980年(昭和55年)4月に文部省より法人の認可を受け、それまで法人化の準備を進めてきた日本鍼灸医学会及び日本鍼灸治療学会の役員が主体となって法人学会を運営することとなった。設立時の役員は両団体及び鍼灸関連学術団体から選出し、既に法人認可の申請と共に届け出てあったが、認可後あらためて理事20名、監事2名を選出し、理事会を開催して昭和56年度事業計画をたてた。
昭和56年5月、社団法人全日本鍼灸学会設立総会を愛知県名古屋市において開催し、総会の議決を経て本格的に事業を執行することとなった。
法人学会の主な事業は、定款の目的及び事業に則り、次のような事業を行なうとしている。
- 研究発表会及び学術講演会等の開催
- 学会誌、学術図書及び資料の刊行
- 調査研究の実施
- 内外の関連学協会との連絡及び協力
- 研究の奨励及び研究業績の表彰
- その他目的を達成するために必要な事業
これらの事業のうち、主要な事業は、学術大会の開催、研究活動、学会誌の刊行、学術交流などが挙げられる。また組織の拡充と活動を推進することも事業として必要となってくる。
法人組織を運営していく上において、定款にある会議によって議決し執行しなければならない。総会、理事会、評議員会がこれにあたる。次に、執行機関の役員を決定し会議を行ない執行する。
役員である理事、監事を選出し、理事の互選により会長、副会長、常務理事を決定する。評議員は支部選出及び理事会推薦の評議員を決定した。そして事業展開をするための各部が編成された。法人学会として当初は、会務運営と組織管理を行なう総務部、経理部、組織部を置いて、事業を学術部、編集部、国際部、調査部に分担することとした。その後、機構再編により調査部を廃し、研究部を置いている。
次に、37地方会を承認し支部と位置付け、支部活動としての事業をも推進することとなり、助成金を交付することとした。また、全国をブロックに分けて複数の地方会によって構成しブロック活動も行なった。当初は北海道東北、関東甲越、中部、近畿、中四国九州の5ブロックであった。
学会事務局を日本鍼灸会館内として、昭和56年10月に専従事務員を採用した。
年次事業の展開
年次事業の主軸は、学術大会の開催であった。昭和56年5月に、第31回学術大会を愛知地方会の担当によって開催した。法人学会として最初の大会であり学術大会の基礎ともなって今日に引き継がれている。以後、平成5年のWFAS世界鍼灸学術大会(京都)開催の年を除き、毎年、各地方会の担当により開催されている。その規模、内容は年毎に充実し平成13年には第50回(大阪)平成23年第60回(東京)を数えるに至った。
支部学術集会は、当初3ブロックにおいて開催されていたが、現在はブロックが支部となり支部の増加と共に7支部において開催されている。各地方での学術講習会、認定研修会も地方事業として開催されている。
学会誌「全日本鍼灸学会雑誌」の刊行は、昭和56年9月に第31巻1号を刊行したのが法人事業としての最初である。以後年4回の学会誌を発行し、昭和57年には郵政省より学術刊行物の指定も受け、会員はじめ関係機関へ配布している。学会誌は、会員からの研究発表や学識経験者の依頼原稿を掲載し、会員の資質の向上を図っている。また、会員相互の連絡やニュース性を主とした「鍼灸学会報」は調査部において編集し年4回発行していたが、平成10年から調査部が廃部となってから学会誌に統合掲載されることとなった。
研究活動は学会当初からの主要活動で、研究委員会を設置しワーキンググループとして基礎、臨床の研究班において活発に展開した。基礎班、慢性肝機能障害班、腰痛班、膝痛班、高血圧症班、下肢痛班にはじまり、その後基礎に3班、臨床に頚肩腕痛班、不定愁訴班、泌尿器班、肩凝り班、スポーツ鍼灸班、鍼灸診断法班、鍼灸治療法班、情報・評価班がおかれ、研究結果を毎年学術大会において発表し学会誌にも掲載された。現在は研究部に昇格し、新たな研究事業に取り組んでいる。
学術交流は、国内鍼灸学術団体、教育機関、業団体との交流も積極に行なわれている。また、国外においては国際部が中心となって諸外国との鍼灸関連団体との交流が行なわれている。
中でも、国際鍼灸学会への参加、発表も当初から行なわれ、WHO(世界保健機関)の伝統医学部門との交流や日本の提唱によって設立されたWFAS(世界鍼灸学会連合会)には、その設立準備から深く関与し、1997年の設立以来、役員を送っている。WFAS主催の世界鍼灸学術大会、国際シンポジウムには毎回参加し発表も行なっている。特に平成5年にはWFASとWHO共催による「第3回世界鍼灸学術大会」を当学会の担当で日本・京都で開催し、世界各国40カ国以上、3500名の参加を得て盛会裏に挙行でき、日本の鍼灸レベルの高さを世界に知らしめることが出来た。
また近年は、欧米での鍼灸医療の普及と共に米国においてもNIH(米国衛生研究所)の鍼の効果に関するシンポジウムが開催され、これをきっかけに国内大会に招聘し、米国において講演も行ない交流を深めている。
日本の鍼灸研究を国際的に紹介し理解を深めていただくことを目的に、又、EBMの概念に則った研究に対する会員諸氏の認識を促し、海外の研究の実情を知って、国内における鍼灸の臨床的エビデンスを提示する研究の活性化を図るために、2006年に第1回の国際シンポジウム「変形性膝関節症に対する鍼灸治療のエビデンス」、2009年に第2回「腰痛症に対する鍼灸治療効果のエビデンス」を開催した。2012年には第3回国際シンポジウム「頭痛に対する鍼灸治療のエビデンス」を開催する。今後も3年に一度開催予定である。
研究業績の表彰として、平成8年に「高木賞」の設置を決定し、学会雑誌論文から優秀な論文に対して表彰と賞金を贈呈することとなった。高木賞は、高木健太郎初代会長のご遺族からの寄付等を基金として、会員の優秀な研究業績に対して贈られるものである。
学会における生涯教育、認定制度の可否が論議され、将来検討委員会の答申を受けて平成10年度に認定制度委員会を発足した。制度の研究、資料収集、規則案の策定、実施要領等の検討を行ない、平成11年度から会員の資質向上の一環として、生涯教育の研修を実施し、一定の学術水準を満たすことを認定する「学会認定制度」が発足した。これは学術大会への参加、指定講座の研修、学術集会や地方研修会への参加、指定講座の研修等によってポイント制の5年間研修実績により認定委員会の審査で「学会認定証」が交付される。5年間の更新制度で会員としての生涯研修が最大の目的となっている。定款の事業にもこれを加えた。
2013年第60回記念大会は、日本伝統鍼灸学会と共催で「日本鍼灸に関する東京宣言」を宣言し、内外の関係者に日本鍼灸の在り方を発表した。(会場:東京有明医療大学)
このほか、学術部を中心に鍼灸の用語委員会、鍼灸の定義、鍼灸施術の適応と限界、鍼灸施術の安全基準などについても討議している。
事業の現況と将来
学会は全国組織の社団法人である。全国の会員をもって組織されている。会員は正会員・学生会員・賛助会員・名誉会員に種別されている。当学会は前身学会からの地方会組織を受け継ぎ、支部として組織基盤としてきた。最近は文部省指導によって従来のブロックを支部としている。新たに平成20年6月の総会にて決議し、各地方会を廃止し会員は本部在籍とした。また、理事会では全国6支部(会員のいない)をおき学術活動などを開催する。
組織・事業の発展のため、昭和60年、平成3年、8年と数次にわたって「将来検討委員会」を開催している。定款・施行規則・諸規程の改正や制定、学術大会の運営指針、認定制度、役員選任、選挙制度等について論議を尽くし、その答申を受けて事業や会務運営に反映させ実施してきている。会員の拡充には毎年施策を検討し実施しており、会員名簿の発行も回を重ねている。最近は、スポーツ鍼灸の普及に対応して委員会を置き、ITの普及によりPCによる会員動態の把握、会務連絡、HPの開示や事務作業の効率化・改善も行なった。それに伴い2004年情報担当の広報部をおく。
2010年、鍼灸の国際標準化の動きに対応する目的で、WHO、ISO,IDCなどの国際会議に参加し対応を図る必要があり、日本東洋医学サミット会議(JLOM)との連携を目的に会長直属機関としてJLOM関連委員会を設立し活動を行なっている。
当学会は鍼灸医学における唯一の社団法人である。学会としての歴史は60余年に遡るが、法人としては30年を経過した。この間に法人としての事業展開を推進し、法人組織としての整備を行なってきたことにより漸く基盤が定まってきたと思われる。21世紀を迎えて、会員が法人としての学会の意識をさらに高め、会員としての責務を自覚し、これからも定款の目的にかなう事業展開を強力に遂行していかなければならない。2014年公益法人化の移行に伴う定款改正を行う。
鍼灸は今や医療の一分野として大きな位置をしめ、単に伝統医学としてでなく、代替、相補・補完医学としても注目されている。鍼灸の治効は科学的解明と根拠に基づくEBMが求められている。医療経済学の分野からも鍼灸の役割が重要視される時代である。それらを踏まえて法人学会の存在意義は深く、事業への期待は高まる一方である。
2012年(平成24年)4月常務理事金井正博 加筆 (井上慶山:法人設立20周年史参考)
2013年(平成25年)4月1日付で公益社団法人全日本鍼灸学会へ名称変更し、移行手続が完了する。
この法人の最初の会長は後藤修司、副会長は久光正、小川卓良とする。 公益社団法人移行による定款の変更に伴い、議決機関であった評議員会は諮問委員会と名称と役割を変更。諮問委員会は、顧問参与会議と変更することに至った。 公益社団法人のその事業目的を次の通りとして、学術の発展及び国民の健康に寄与することを目的として、更なる一歩を踏み出すこととなった。
公益目的事業
- 鍼灸医学に関する研究の進歩普及を図るため、学術大会、支部学術集会などを実施する事業
- 鍼灸医学の学術向上と普及を図るため調査、資料収集を行う事業
- 鍼灸医学の学術の振興を図るための助成事業
- 鍼灸医学の発展普及を図るため学術雑誌などの発行や鍼灸医学の情報を公開する事業
収益事業等
- 学会が認定する、認定登録鍼灸師を育成するため、学会在籍5年以上の正会員で、別に定める履修基準をみたしているものが、認定試験を経て認定証を付与する事業及び学会会員の優秀なる研究業績に対して表彰する事業
2014年(平成26年)9月常務理事齋藤隆夫 追記