2023年1月26日
会員各位
いわゆるCOVID-19罹患後症状はPost COVID-19 syndromeあるいはLong COVIDなどと呼ばれ、オミクロン株になってやや減少傾向にはありますが、長引く症状に困っている方がおられるのも現状です(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html)。そこで、COVID-19罹患後症状に対する鍼灸論文を紹介いたします。詳細は、こちらをご覧ください。
Post COVID-19 syndromeに関する鍼灸論文の紹介−2023年度版
【目的】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した後、感染性は消失したにもかかわらず症状が持続する、また症状が一旦回復した後に同じ症状や新たな症状が出現することがある。
これらは、post COVID-19 syndrome(PCS)、long COVID(long COVID syndrome: LCS)、post-acute sequelae of COVID-19 (PASC)などと呼ばれている。
代表的な罹患後症状は、疲労感・倦怠感、関節痛、筋肉痛、咳、喀痰、息切れ、胸痛、脱毛、記憶障害、集中力低下、頭痛、抑うつ、嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢、腹痛、睡眠障害、筋力低下などであるが、現在のところ特異的な治療法はない1)。
そこで今回、Post COVID-19 syndromeに関する鍼灸治療論文を収集し紹介する。
【方法】
以下の手順で論文を収集した。
1.データベース・・・PubMed, CENTRAL, Google Scholar, WHO COVID-19 Global Research Database
2.検索キーワード・・・post COVID-19 syndrome, long COVID, acupuncture, moxibustion
3.検索⽇・・・2023年1⽉2⽇〜10日
4.検索の制限・・・⾔語の制限なし、ただし学術大会の抄録は除外。
【結果】
- PubMed search
1) (Post COVID-19 syndrome or Long COVID) * acupuncture 26件
2) (Post COVID-19 syndrome or Long COVID) * moxibustion 11件 - WHO COVID-19 Global Research Database search
1) Post COVID-19 syndrome * acupuncture 19件
2) Post COVID-19 syndrome * moxibustion 1件
3) Long COVID * acupuncture 31件
4) Long COVID * moxibustion 8件 - CENTRAL search
1) Post COVID-19 syndrome * acupuncture 2件
2) Post COVID-19 syndrome * acupuncture 0件
3) Long COVID * acupuncture 4件
4) Long COVID * moxibustion 0件 - Google Scholar search
1) “Post COVID-19 syndrome” *acupuncture 185件(2019年以降に限定)
2) “Post COVID-19 syndrome” *moxibustion 16件(2019年以降に限定)
3) “Long COVID” *acupuncture 443件(2019年以降に限定)
4) “Long COVID” *moxibustion 40件(2019年以降に限定)
以上の論文のタイトル、abstractを確認し、今回のテーマであるpost COVID-19 syndrome(long COVID)に対する鍼灸治療論文を調査したところ、79論文が抽出された。79論文について、full論文を確認したところ、さらに13論文がpost COVID-19 syndromeでなく、20論文が鍼灸治療を扱ったものでないことが判明し、46論文が残った。46論文の内訳は以下のとおりである。
Case report 8論文
Clinical Research 4論文
Guideline/Guidance 4論文
RCT/Systematic reviewのprotocol, registration 6論文
Editorial/Review/Commentary 21論文
News/Report 3論文
ここでは、Case report、Clinical Research、Guideline/Guidance、RCT/Systematic reviewのprotocol, registrationについて簡単に解説する(別表)。
【総括】
1.Case Report 9編
国別では、アメリカ合衆国3編、オーストリア2編、日本、インド、ニュージーランドが各1編であった。中国からの報告はなかった。鍼治療中心の論文もあったが、多くは他の治療手段(漢方、理学療法、ハイパーサーミア、アユルベーダ、吸角など)との併用であった。対象とする症状としては、倦怠感や嗅覚異常などが中心であったが、消化器症状、筋痛を目的とした報告もみられた。
2.Clinical Research 4編
前向き研究はなく、4編とも症例集積であった。ただし、うち3編は同一著者によるもので、2編はそれぞれbrain fog、眩暈を対象にした症例集積、1編はPost COVID-19 syndromeの症状全般を対象にしたものであった。治療手技としては、鍼通電療法が多く、鍼治療と吸角の組合せの報告もみられた。
3.Guideline/Guidance 4編
ガイドライン/ガイダンスを作成した組織としては、学会が2つ、大学が一つであった。残り1つは個別の研究グループによるもので、evidenceに基づいたガイドラインというよりもDelphi studyによる推奨であった。
4.RCT/Systematic reviewのprotocol, registration 6論文
国別では中国2編、ブラジル、エジプト、英国が各1編であった。残りはコクランのプロトコールであった。研究の対象としては、Post COVID-19 syndromeにおける全身倦怠、呼吸困難、嗅覚障害、味覚障害などであった。また、免疫反応を指標にしたものもあった。
【おわりに】
Post COVID-19 syndromeに対する鍼灸治療に関しては、海外でもようやく症例報告や症例集積が出てきたところである。前向き研究については、プロトコールは発表されているものの実際の成果は未だ出ていない。一方、我が国においても症例報告は徐々に出てきている(別表に書誌情報をまとめたので参照)。
Post COVID-19 syndromeは、西洋医学的にも東洋医学的にもその病態が未だ十分には解明されておらず、今後の研究の発展およびさらなる症例の集積が期待される。したがって、今回紹介した論文はそれぞれが試行錯誤している過程だと思われるので、会員諸氏には、それを理解した上で参考にしていただければ幸いである。
文献
1)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html